ベートーヴェン ピアノ・ソナタ「月光」

今日(2017年8月12日)の毎日新聞の1面トップと社会面に載っていた特攻隊の記事を読み、特攻隊をテーマにした映画を思い出したのでご紹介します。

1993年作の映画『月光の夏』です。
これから特攻で敵艦に突っ込むことが決まっている海野光彦が今生の最後の曲として、小学校のピアノでベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」を弾きます。彼はそのあと敵艦に突っ込み、そのとき同伴していたもう一人の青年・風間森介は機体の不調で基地に引き返し、振武寮に幽閉され屈辱の日々を送ることになります。

戦後、風間(仲代達也)はその小学校を再訪し、海野の遺影の前で、同じピアノでこの曲を再び弾くことになります。特攻というと、山田太一の「男たちの旅路」(第1部第1話・非常階段、1976年)の中の吉岡司令補(鶴田浩二)の印象が強烈でした。この社会派ドラマシリーズはNHKの「土曜ドラマ」としてその後も続き、どの作品も見ごたえがありました。

全身全霊をささげてこの曲を演奏する海野の姿には心を打たれます。この映画は戦争や特攻を美化するものでない証拠に、祖国を守りたいという一途で純粋な気持ちで特攻を志願したが様々な理由で生き残った隊員に、「振武寮」という収容所で侮辱の言葉を投げつける上司への激しい怒りと憎しみも描いています。それは音楽学校の学生すら、無謀な戦争に駆り出していった当時の軍国主義の日本への痛烈な批判とも受け取れます。

戦後の風間役を演じた仲代達也は今年84歳になりますが、中学の時に青山の友人宅に遊びに行く途中、山の手空襲に遭い、一人でさまよっていた小学1年くらいの少女の手をとっていっしょに逃げたそうです。そのとき、少女に焼夷弾が直撃し、少女の腕と胴体が引きちぎられる体験をしました。彼は怖さのあまり少女の腕を投げ捨ててしまったこと、その少女の手を引いて逃げなければ、その少女は死なずに済んだかもしれないとずっと自責の念に苦しんだということを最近口にするようになりました。それは右傾化していく世の中と、安易に日本国憲法の第九条(平和主義)を改正しようとする安倍内閣へ戦争体験者として、戦争の悲惨さ、愚かさ、平和の有難さを語っておかなければならないとの思いからでした。(TBS「報道特集」2017・8・5)

戦後72年続いた平和は、先の戦争で亡くなった多くの方々の犠牲のうえに成り立っているということを、もう一度心に刻んでおきたいものです。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2
第一楽章 Adagio sostenuto(アダージョより少しテンポを抑えて)
第三楽章 Presto agitato(極めて速く興奮して)

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