ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」第2楽章
「二十歳の原点」という日記を書き残して20歳で鉄道自殺した高野悦子が、亡くなる5か月前の1969年1月17日に
『ぼんやりとした寂しさが今日を支配していた。この頃、そういう時は独りになり自分の心をじっとのぞくことが多くなった。安易にごまかすことは何の解決にもならないことに気付いたのだ。ベートーベンの「皇帝」を聞いて勇気づけられたけど、その寂しさはいやされなかった。』と綴っていた。
この日、全共闘の学生が立命館大学の中川会館を封鎖し、翌日には、東大本郷の安田講堂が占拠される「東大安田講堂事件」が起きる。栃木県西那須野の裕福な家庭に育った感受性豊かな女子学生が、仲間が自分の信念を持ち、連帯し、学生運動をおこなっている姿に尊敬や憧れの気持ちを抱くとともに、親からの仕送りで何不自由なく過ごしている自分に疑問を感じ、その恵まれた環境を自ら断ち、バイト生活で疲れ果て、人間関係に悩み、そして学生運動に飛び込んでみるが、結局はますます自己を見失っていく。
私も1年ほど京都で暮らしたことがあって、出町柳駅近くの名曲喫茶「柳月堂」にはよく通った。入店の際、帳面に聞きたい曲をリクエストしておくと、LPレコードを大型スピーカーで鑑賞することができた。柳月堂から鴨川を渡り南へ1kmほど行くと、高野悦子が通っていた立命館大学の広小路キャンパスがあった。このキャンパスも、彼女が通った喫茶店「シアンクレール」も今はない。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」第2楽章 Adagio un poco mosso(ゆっくり、少し動きのある)を聞くと、私の銀閣寺近くの3畳の下宿に貼っていた夕日の広沢池のパネル写真を思い出す。(Youtube試聴)